第41回 2024年4月26日
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第一鋏「数は裏切らない」
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彼は細身で繊細さを醸し出す風貌でありながら、大胆な話口で私の心に刺さる名言を残した。その数個をぜひ紹介したい。彼の名前はニーニャ(仮名?)なんだか最近有名なアニメのキャラみたい。
まずひとこと言っておきたいのは、「実をもって木を知る」である。私は彼の外見で筆を取ったわけではないのだ。彼のカットを見て、その出来上がりが家族にあまりにも好評で、感動した。
その結果、記憶に残る彼の鋏の音が、普段人のことを書かないルーク工場長に筆を取らせた・・・全くもって驚きだ。そんな鋏の音が響き渡る室内で一言「数は裏切らない」と思ってやってます。と彼はサラリとしかし自信たっぷりに語る。美容師にとってのカットは、数をこなすほど精度が増す。彼は「今の世界中の同じ年齢の美容師と比べても、ボクは1番切っている」と言っていた。そして数は裏切らない・・・それは間違いない。
数をこなすほど精度は上がるし、髪質による切り分けや、どんな髪型に完成するかそれは全て頭に入っているし、手が覚えているのだろう。ビジネスにおける「量」は間違いなく最重要事項。絶対的に必要なのだ。
後進育成を行ったことのあるビジネスマン、効率良い仕事を追求している営業マン、団塊の世代で競い合って生き残ってきた人も「絶対的に仕事は量が必要」だということは身をもって知っている。
ハサミは彼の指先のように見えた。
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第二鋏「美容師はスポーツ選手」
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衝撃的だった。絵描きやアーティストと同じかと思っていたら、美容師は寧ろスポーツ選手に近いようだ。野球界での大谷選手の活躍を知らない人はいないだろう。だが、第二の大谷選手を育成しようと思ったら、マニュアルは作れない。それは、「彼のセンス+経験値」によって成り立っているからだ。
プロのスポーツ選手に聞いても練習量の半端なさは際立っている先天的なセンスと後天的な数による質の向上。経験値による独自性。やはりスポーツ選手に近いのだろう。
さらに深掘りしてAIに通常の美容師の一生における情報量を1万人分入力して経験値を学習させたら?という私の意地悪な質問に、彼は「もしそれが可能なら、とてつもないカリスマA I美容師が誕生しますね!」と真面目に答えてくれたのも印象的だ。
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第三鋏「発明なんて簡単だ」
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彼は発明家なようだ。お父さんが発明をする人で、その業界では有名な機械を開発したとのこと。彼もその血を継いでいるのか?美容師として売り上げを上げる新しい仕組みを発明したとのこと。彼曰く、発明は人と違うことをするときに生まれる!のだそうだ。
確かに人と同じコンセプト上にものづくりをすると、上位互換が関の山。発明をするには、頭を柔軟にして、人と違うことをやらないといけない。そして発明をする人は総じて、四六時中そんなことを考え、思いついたら最後、居ても立ってもいられず、無我夢中で完成させる・・・この極振りの一点集中が必要不可欠なんだろう。
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第四鋏「お客さんの要望、なんでも聞いちゃう」
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美容師が最も喜ばれる成果としては「私の思った通りの髪型にしてくれた」という評価だと思う。そんな時、自分の力量が試される。そして相手の要望に添えない時、勉強が必要な自分に向き合わないといけない。
つまり、お客さんの理想への究極的な寄り添いが、美容師の実力を底上げするのには大切なんだろう。
どんな仕事でもそうかもしれない。「自分にはここまでしかできない」とか、限界を勝手に設定した時、成長は止まり、伸び代は消え去り、今ある技術や経験が、自分の実力のすべてになってしまう。
人はこうして安心したい生き物なのだ。
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第五鋏「年齢40代は無敵」
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これは別に彼の言葉ではないのかもしれない。
誰かが統計学的に導き出した数字な気もする。ただ、私も人生経験からすると、「人生に無駄なんか一つもない」。本当にそうだ。どんな無駄に見える仕事も、逃げ出したいクソみたいな現実も、しっかりと向き合って泥まみれになって得たほんの小さな経験が未来の世界の大きな、そして重たい礎になる。
そんなことはザラにあるんだ。
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第六鋏「給料下げてください!」
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はい!驚き発言いただきました。
「いや〜給料あげてほしいって交渉することってありますよね?」的な話になった時、「そんな時は、思い切って給料下げてください・・・」から始めてみたらどうですか?という彼・・・おもしろそうに笑っていたが、
最初はあまり面白くなかった。だがそのあと考えてみたら、もし自分がそう言われたら、その時本気でその人の給料がその人の仕事や実績、責任や未来の活躍への投資額にふさわしいかって考える気がした。
人は知らず知らずのうちに臆病になって生きているのかもしれない。